資産運用の世界最大手、ブラックロック。「黒い石」を意味するその社名からも分かるように、石炭をはじめとした化石燃料に巨額の投融資を行ってきた同社が、重大なアナウンス発表を行いました。
その中で「ブラックロックは今後、その投資業務において、(一部の)石炭会社から投資を引き上げた上、顧客に「持続可能な」ポートフォリオを組むよう促していく」と明記。 差し迫る気候危機問題と照らし合わせると、不十分かもしれません。しかし、この発表は気候ムーブメントにさまざまな変化をもたらし、さらに金融界、そして化石燃料産業に重大な影響を与える可能性があります。
次から次へと起こる悲惨な山火事に、世界各地で押し寄せる洪水。そして氷河が流れ出し続けた昨年、それまで無策だったグローバル金融機関が、ようやく重い腰を上げ始めました。 先月は、手段を選ばずに利益を吸い上げることで有名だったゴールドマン・サックスが、「世界中の石炭採掘および石炭火力発電プロジェクトへの投資、ならびに北極圏における新規石油開発と生産への直接的な資金提供の打ち切り」を発表しました 。
このように化石燃料投資の引き揚げ(ダイベストメント)を表明する機関は徐々に増え、ゴールドマン・サックスもブラックロックも、そのようなダイベストメント・コミュニティの仲間入りを果たしました。 現在、1,183の投資家 が何らかの化石燃料ダイベストメント・ポリシーを掲げています(2020.2.10現在)。
これら投資家の中には自治体や企業、大学をはじめとしたさまざまな機関が含まれます。ダイベストメントの声を上げ後押ししたのは、それらの有権者や構成員、そしてボランティアキャンペーンを組織した学生団体などです。 さらに多くの機関がダイベストメント・コミュニティに加わるよう、今も多数のキャンペーンが展開されています。
では、化石燃料ゼロを目指すダイベストメント・ムーブメントの今現在の状況を見てみましょう。 石炭ダイベストメントを表明したグローバル金融機関 の数は100を超え、その数は現在も上昇中です。
こうしたダイベストメント表明は大きな影響をもたらしています。石炭業界は、かつてないほど資金調達に行き詰るようになりました。 また、機能していない政治システムに代わり、金融界がその穴埋めをしていることを意味し、脱石炭方針の導入は、急速にグローバルスタンダードになりつつあります。 状況に応じてダイベストメントキャンペーンは新たな戦略を展開できます。あるいは、資本主義の競争と競争相手からのプレッシャーによって、キャンペーン対象がグローバルスタンダードから遅れをとってしまうと働きかけることができるのです。
小規模な化石燃料ダイベストメントは常識となる一方、大規模なダイベストメント表明の多くは「気候リスク」について触れています。英国の非営利シンクタンク「Carbon Tracker(カーボントラッカー)」が2012年に提唱した「座礁資産(市場や社会の変化に伴い、価値が大きく損なわれる資産のこと)」という概念が周知されるようになってきた結果です。
ブラックロックによるダイベストメント表明は、「気候リスクは、皆が取り組むべき危機管理問題」として今後さらに認識されるようになります。 気候リスクには、「物理的リスク(洪水など)」と「移行リスク(脱炭素社会への移行に伴う技術や政策の変更など)」の2種類があると考えられていますが、 いずれにせよ、ブラックロックが気候リスク管理に取り組んでいる、あるいは取り組み始めている(こちらの詳細分析を参照)のであれば、世界中の金融機関も気候リスクに対処しなければならないでしょう。 この事実を踏まえ、各国の中央銀行は、各国の金融セクターが化石燃料産業への貸付を制限することで、座礁資産にさらされるリスクを軽減しなければなりません。 数か月前、およそ1.5兆米ドル(約160兆円)を運用する日本政府の公的年金、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、環境や社会やガバナンス(ESG)の問題を考慮する必要があると主張した上で、その投資規範に則って、ブラックロックに投資していた 数十億ドルを引き揚げています 。
市民の手による気候ムーブメントは、ついに不可能を可能とし、動かぬものを動かしたと言っても過言ではありません。 ゴールドマン・サックスからブラックロック、AXA(保険業界の世界最大手)、欧州投資銀行(世界最大の公的金融機関)、アフリカ開発銀行に至るまで、いかなる機関も組織も、人々の力でつくり上げた気候ムーブメントの圧力から逃れることなどできないのです。…
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